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生き物騒動

著者 岩崎 正

2000年8月30日(水)産経新聞静岡版”学びと教えの現場から”掲載

生き物騒動

 教室には、様々な生き物が持ち込まれることがある。ザリガニ、ドジョウ、カメ、カマキリ、カブトムシ等々。そして、これらとともに、騒動も。

  ある休み時間のこと。廊下を歩いている私の所へ良子さんが慌ててやって来た。
「先生、広君がカミキリムシに食いつかれて、泣いています。どうやってもとれません」
 四年生の教室へ戻ると、広君は虫かごの前で大泣きだ。いたずらっ子の広君、おそらく友達と一緒に、カミキリムシを虫かごから出して遊んでいたに違いない。そして、何かの拍子に、食いつかれてしまったのだろう。餌と間違えられたか、虫君の怒りを買ったか…。 周りで取り巻いている友達もどうしていいか分からず困った顔をしている。「おやおや、これは痛いね」と、私は落ち着いて声をかける。こういう時は、子供の頃の体験が生きる。
「どれ、こちらへおいで」と、泣いている広君を手洗い場へ連れていく。蛇口から勢いよく水を出し、虫君が食いついた指をその中へ入れる。突然の滝に驚いたのか、また、流れる水で、頭を冷やしたのか、虫君は、やがて指から放れた。一件落着。その後の広君、丁重にカミキリムシを扱っていた。

 ■両方の可能性が■

 学区の自然環境にもよるが、小学校中学年くらいの男の子が生き物をよく捕ってくる。教室に登場すると、子供たちが群がり、「どこそこで捕まえた」「俺のは大きい」など会話が弾む。獲物を自慢する場である。捕まえてきた子は、脚光を浴びる。時に、獲物が貴重故に騒動になることもある。 
 ある時、オオクワガタが持ち込まれた。孝君が親戚の人からもらってきた立派なオオクワガタだ。買えば、相当するだろう。飼育箱に群がった男の子たちが「すごいでかい」と騒ぐ。
 次の日の朝は、もっと大騒ぎになった。「孝君のオオクワガタがいなくなっちゃったんだって」。中には教室や廊下、階段と走り回っている子も。
「朝、教室に来たら、飼育箱のふたが、少し開いていたんだ。中を探したけど、メスしかいない。だれか、もっていっちゃったかもしれない」こう語る孝君の目から、大粒の涙がこぼれた。「クワガタは、夜中に活動するよ。あれだけ大きいクワガタだから、ふたを開けて、外へ出たかも知れないよ。探してみよう」とりあえず返事したが、自信はない。男の子たちは既に探し回ってくれている。
 飼育箱のふたは、しっかり閉められていなかった可能性がある。が、メスは箱の中に残っているのだ。
 ひょっとしたら、だれかが黙って…。今の状況では、両方の可能性で事を進めねばならなかった。    

 ■表情に緊張感が■

 朝の会で子供たちに向かって「孝君はオオクワガタがいなくなって、とっても悲しんでいるんだ」と話し、夜中のうちに、逃げ出した可能性があることを伝えた。そして、静かにこう続けた。「でも、もっと悲しいことになるのは、クワガタをだまって持っていってしまったという人がいた場合なのです」子供たちの表情に、緊張感が漂う。「黙って持っていくという人がいたとしたら、それはいいことなのかなあ」と聞いた。「ぜったいいけない」と口々に返事がきた。その力強さに、真剣さが感じられた。
「さすが。その通りですね」と言い、休み時間にもう一度みんなで逃げ込みそうな所を探そう、と話を終えた。
 二時間後、「先生、教室の隅にいたよ」と孝君がうれしそうに報告にきた。事の真相は、分からないが、クラスみんなで喜んだ。
 一生懸命探し回った子がいたこと、私の話を真剣に聞いてくれたこと、騒動もまた学びの機会である。

 夏休みも終わる。二学期には、どんな生き物と騒動が持ち込まれるのだろうか。

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